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2004年10月17日

『生首に聞いてみろ』法月綸太郎

町田横浜ICで高速を降り、町田街道を北上する。原町田五丁目の交差点を右折して、芹ヶ谷公園を通り抜け、午後二時きっかりに南大谷の川島邸に到着した。

学生のころ2年間、僕は町田市南大谷のアパートに住んでいた。南大谷といっても広いのだけれど、ここまで描写されると、同じように毎晩車で町田街道から原町田五丁目を右折し公園を通り抜けていた僕は嬉しくなってしまう。

綸太郎は車で、山手線で、小田急線で、地下鉄で移動する。この路線を使ってここで乗り換えれば早く着くだろう、とか、(アリバイや足取り確認といった「ミステリ的な必要」がなさそうなところでも)ちまちま考えたりする。僕はちまちま考える綸太郎が大好きである。

殊能将之氏が、「厳密性への強い意志」ということを書いていた。
→http://www001.upp.so-net.ne.jp/mercysnow/LinkDiary/links0410.html

この週末にじっくりと時間をかけて読んだ。本当に、おもしろかった。

ビールと春巻で一息ついた綸太郎が語りはじめる。残り少ないページ。間もなく至福のときが終わってしまうことを残念に思いながら、はやる気持ちを抑えられない。期待が期待のまま、最後まで僕を裏切ることがない。ここ数年で最高の読書体験だったと言ってしまおう。待った甲斐がありました。

生首に聞いてみろ


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2004年08月11日

『バッテリー』あさのあつこ

北上次郎の惹句が気になって文庫を購入。

凄い。会社帰りに横浜駅のホームでも読んでいたら、没頭しすぎて乗る電車を間違えてしまった。

12歳にして、投手としての抜群の才能に不遜なまでの自信を持っている少年、原田巧。その速球には、甲子園経験のある大人のバットさえも差し込まれる(!)。巧は野球につながりのないすべてのものやひとを、「自分には関係がない」と冷酷に切り捨てる。その強烈に過ぎる自負と、年相応の幼さや視野の狭さが、自らの天才をもてあまし、幾度となく彼の心はささくれ立ってしまう。そんな描写が感動的に細やかで、僕はどこどこまでも圧倒された。

中学入学の直前に越してきた小さな地方都市で巧は、彼とのバッテリーを熱望する同級生の捕手、永倉豪と出会う。豪のチームメイトにも出会う。野球が「クラブ活動」でしかない、ありふれた少年たちである彼らにも、しかし、それぞれの物語がある。その描かれかたは、決してスターではないメガネ君やヤスや彦一をみずみずしく躍動させた『スラムダンク』をふと思わせる。

キャッチャーの豪は、中学野球で、ゆくゆくは甲子園で、巧とバッテリーを組みたいという夢を「抱いてしまった」。彼は自分にそれなりの実力があること、しかしそれが決して巧ほどの天賦ではないことを知っている。父は医院を営み、彼はその一人息子だ。母は息子に、野球をやめて塾に通ってほしいと願っている。後を継いでもらうために。おおらかで他者の心理をよみとることに長けた豪は苦悩する。ずっと巧の捕手でいられるのか。そのためには何かを犠牲にすることになるのか。犠牲にしたところで、それが無駄にならない保証はあるのか。まだ中学1年なのにこんなに悩まなければならないのか?。「非凡な才能に巻き込まれ、翻弄される周囲」の姿が、もっとも強い影響を受ける相棒(キャッチャー)という役割を背負う少年、豪を通して繊細に描かれる。

脇を固める人物たちもいちいち一筋縄ではいかない。それぞれが強い個性をもつ巧の家族たち。弟の青波は病弱だが心やさしく、兄がピリピリと緊張させた場を和ませる。高校野球界で有名な監督だった祖父の洋三は、野球に対する作者の深い造詣の語り部でもある。色々なひとにとっての色々な野球を作者は知っている、そんな気がする。勝手な想像だけれど、昨日笑顔を浮かべて記者会見に臨んだ某プロ球団社長の姿を、作者は苦々しく見たのではなかろうか?

…とまあ、なんだか珍しく一生懸命に作品世界を語ってしまった。ゆうべ1巻を読了、2巻(バッテリーII)も買って読みはじめた。もともと児童書として刊行された全5巻、残りはまだ文庫化されていないらしい。待ちきれない。面白いです、本当に。

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04.08.11
あさの あつこ
角川書店 (2003/12)
売り上げランキング: 1,355
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おすすめ度の平均: 4.71
5 野球小説を期待する人は読まないほうがいい
4 女性にしか書けない心の痛さが、
5 青春
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2004年07月05日

『ダ・ヴィンチ・コード』ダン・ブラウン

タイトルを忘れたけれど僕の本棚のどこかに北野武の映画評論があって、メジャーどころの映画を10本くらい、例によって爽快に斬りクソミソにけなす内容なんですけども、そのなかで『フィールド・オブ・ドリームス』はめずらしく彼が「すごいよ」と唸った作品でした。ただ、続けて次のようなコメントが。「感動したって言ってる日本人が多いけどさ、黒人と白人とメジャーリーグの歴史だとか、父と子の関係とかさ、そういうアメリカ人が当たり前に共有している知識とか感情なしに、簡単に感動したなんて言えるのかね」「おすぎが感動したって言うけれど、あんなオカマに何がわかるっていうの」。

読みながらそんなことをふと思い出した『ダ・ヴィンチ・コード』、「ダ・ヴィンチが絵に込めた暗号とは? 全米650万部突破、話題騒然の衝撃作」だそうです。翻訳は癖がなく読みやすいし、登場人物が限られているうえに兄弟や親子や従兄弟だのがあまり出てこない(=同じ名字が少ない)ので巻頭の「主な登場人物」ページへ行ったり来たりしなくてもすぐに憶えられるし、展開もまぁ飽きさせないしでグイグイ読める。上下同時に買っておいて良かったなと思えます。

しかしベースボールを知らないのと同じかそれ以上に、僕はキリスト教を知りません。解説で荒俣宏は「キリスト教を知らない、あるいは信仰していない人間のほうが、新鮮な面白さを十分に味わえるのではないかと思います」と言うけれど、やはりキリスト教が生活に根付いていて、聖杯伝説についてもたとえ聞きかじりでも素養があるひとのほうがずっと、楽しさや驚きを、時には怒りを敏感に活字から感じられるんじゃないかなぁと思うのです。僕にとっては「聖杯」といったら孔雀王なわけで、正体が同じオチだったら笑っちゃうよな〜などと思いながら読み進めていたクチだったりします…。まぁしかし「へぇ」ではなく「ほぉ〜」級のトリビアがあふれているこの作品、使えそうな蘊蓄を探しにもう一度読んでみようかな。「蘊蓄本」としてしか楽しめなかった自分の情けなさよ、と思いつつ。

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2004年06月21日

『ICO 霧の城』宮部みゆき

「年に360日はコントローラを握っている」らしいミヤベ氏が自身初のノベライズに取り組み、ゲームソフト「ICO」の世界観を言葉に置き換えて提示してくれました。最近ファンタジー寄りだしお得意の子供が描かれてるし、ああゲーム好きのひとが書いてるなーとしみじみ感じられるところもじつによいです。すっごいハマったわりに結局クリアしてなかったICO、読んでるうちに再チャレンジしたくなってきました。

ん? 6/24に八重洲ブックセンターでサイン会? しまった行きたかった(笑)。八重洲に行こうか丸善にしようか迷って、近かった丸善で買っちゃったんだよなぁ。

→ICO 霧の城

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2004年06月08日

『失楽の街』篠田真由美

今日の帰りに買って読みはじめたばかりです。オビには「建築探偵第二部、ついに完結!!」とあります。全作は読んでませんけども好きなシリーズだし、じっくり読もっと。

040608.jpgそうして数ページをめくったところで、この作品が「段組完結」であることに気づきました。段組完結なんて日本語はありませんが、要は(講談社ノベルスだとほとんど→の形になっている)段組をまたいで一文が続くことはない、言いかえると、ことばがブツ切れに見えないよう配慮されている、ということです。

京極夏彦が『絡新婦の理』以降この形式らしく、京極サンはリズム感や読みやすさを考えて、見開き2ページの4コラムをまるで「マンガのコマ割り」のように見せたかったらしいよ、と数年前にある先輩から聞いたことがあります。そう言われてパラパラとめくると、たしかに必ず段組ごとに文が閉じてるじゃーありませんか! この分厚さで、小説で…。途方もなく気を遣いそうな作業に、うへぇ、と圧倒されてしまったことをよく憶えています。篠田真由美の意図が同じかどうかはわかりませんが、作品へのこだわりであり、愛情なんだろうなぁと思います。

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2004年05月18日

最近読んだもの

『重力ピエロ』 伊坂幸太郎
『上司は思いつきでものを言う』 橋本治
続けて読んだミステリと新書ですが、どちらもカギ括弧の中にこそ筆者の真骨頂があるのです。伊坂幸太郎が紡ぎ出す「会話」の妙、橋本治が繰り出す「説明」の巧。ってむりやりまとめることもないんですけども。

ずっと楽しみにしていてようやく読めた『重力ピエロ』。良かったです。この会話の楽しさは、小説以外の形態では表現できないように思います。登場人物に語らせる蘊蓄も僕には鼻につかなかった。

『上司…』はたいそう売れているらしいですが、橋本治を知らずに、死の壁やらバカの壁と同じように流行りの新書として手に取ってしまった上司(と書いてルビは「オヤジ」)たちがどう読んだのかちょっと興味があります。僕は未だ上司ではありませんが、異動によって離れた故郷(現場)への思いが、文中に描かれる上司の抱くそれに極めて近い部分があったなぁと自覚しておかしかったり。
まわりくどい説明を待ちわびる熱狂的なファンがいるというのは偉大なことだとつくづく思います。「説明なんて誰も読みたくない」のアンチテーゼとして存在するひとですね。

040518.jpg◆東横線の吊り広告『週刊金鳥』
金鳥らしい手。じっくり読んでしまいました。
ごきぶりって書ける?(安田成美風)←古っ
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2003年12月23日

このミスどんだけ読んだかにゃ

ことこさんの「このミス」読了チェック。こういうの見ると自分でもやりたくなったり、自分と同じような偏りを持つひとを見つけてなんだか嬉しくなったり、「はてな」な人たちがちょっとうらやましくなったり(笑)そんなわけで国内編に便乗リストしてみます。

◆2003,2002
読了ナシ

◆2001
1 模倣犯 宮部みゆき
3 ミステリ・オペラ 山田正紀
9 煙か土か食い物 舞城王太郎

◆2000
7 象と耳鳴り 恩田陸
10 川の深さは 福井晴敏

◆1999
2 白夜行 東野圭吾
3 亡国のイージス 福井晴敏
4 バトル・ロワイヤル 高見広春
8 盤上の敵 北村薫
9 ハサミ男 殊能将之
10 MISSING 本多孝好

◆1998
3 理由 宮部みゆき
4 屍鬼 小野不由美
5 天使の囀り 貴志祐介
8 邪馬台国はどこですか? 鯨統一郎
9 秘密 東野圭吾

◆1997
1 OUT 桐野夏生
2 黒い家 貴志祐介
4 絡新婦の理 京極夏彦
5 鎮魂歌 馳星周
7 嗤う伊右衛門 京極夏彦
9 三月は深き紅の淵を 恩田陸

◆1996
1 不夜城 馳星周
2 奪取 真保裕一
3 名探偵の掟 東野圭吾
4 蒲生邸事件 宮部みゆき
7 鉄鼠の檻 京極夏彦

◆1995
1 ホワイトアウト 真保裕一
4 魍魎の匣 京極夏彦
6 テロリストのパラソル 藤原伊織
7 スキップ 北村薫
9 狂骨の夢 京極夏彦
10 パラサイト・イヴ 瀬名英明

◆1994
3 照柿 高村薫
8 姑獲鳥の夏 京極夏彦
10 二の悲劇 法月綸太郎

◆1993
1 マークスの山 高村薫
2 キッド・ ピストルズの妄想 山口雅也
6 魔法飛行 加納朋子
7 冬のオペラ 北村薫
10 震源 真保裕一

◆1992
2 火車 宮部みゆき
5 リヴィエラを撃て 高村薫
10 わが手に拳銃を 高村薫

◆1991
4 龍は眠る 宮部みゆき
6 ぼくのミステリな日常 若竹七海
8 神の火 高村薫
9 黄金を抱いて翔べ 高村薫
10 ウロボロスの偽書 竹本健治

◆1990
1 新宿鮫 大沢在昌
2 夜の蝉 北村薫
7 霧越邸殺人事件 綾辻行人
9 魔術はささやく 宮部みゆき

◆1989
2 空飛ぶ馬 北村薫

◆1988
7 迷路館の殺人 綾辻行人
8 密閉教室 法月綸太郎

Total: 56/161

じつは「このミス」というガイド本を僕は一度も読んだことがないし、ランキングを見て「じゃあこれ読んでみよう」と思った経験も皆無だったりします。その割には思ったより読んでた、のかな?
こと小説に関してだけはまんべんなく守備範囲を広げることはせずに、好きな作家にどっぷり浸かって2回でも3回でも4回でも憶えるくらいに執念深く読んじゃうタイプなので、延べ読んだ回数なら200回は軽いだろうと思うんですけども。好きなフレーズが、見開きページの「このへん」にあるんだよね、という映像で記憶しているビジュアルメモリー派でもあります。

いま、久しぶりにハードカバーを買った宮部みゆき『誰か』をのんびり読んでます。布団にくるまって活字を追いながらいつの間にか眠る、秋の夜長じゃなくてもこれはやめられないのよ。

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2003年09月25日

『疾走』重松清

他の代表作と同様に「現代」と「家族」を切り取ってはいるが、描写が圧倒的にむき出しでリアルなので、ずっしり腹にこたえる。これだけの長編を短編かと思わせるほどに、一気に読ませる力はやはり、凄い。けれど僕はこのひとの作品は短編、もしくはオムニバスのほうが好みかもしれない。

小・中学生のいじめ/被いじめ心理を描写させればいつもながら日本一、このひともきっといじめっ子であり、いじめられっ子であったのだろう。読みすすめるうち僕はいつも、自分の「その頃」をふと思い出してしまう。僕はきっとほかの子に比べると脳天気で悩みの少ない「その頃」を過ごしていただろうけれど、それでもときどき学級会や、休み時間や、お昼の給食で起きた「事件」をふと思い出してしまう。あの級友は、だから、あのときあんな表情をしていたのかもしれない…というような僕の「いまさらの想像」に、すこし力を貸してくれる。

トクさんのエピソードは、あまりに直球すぎて電車のなかでニタニタ笑ってしまった。

繰り返される聖書からの引用。解釈しだいではあるのかもしれないけれど、現代の世に照らしても、これほど深く考えさせられる「言葉」を発明したひとの頭の良さは相当なものだ。逆に言うと、人間の本質が、人間がなにを思い悩むのかが、その時代からまったく変わっていないことの表れか。

読後の感想。「僕は、震えました。」

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2003年08月31日

『陰摩羅鬼の瑕』京極夏彦

ようやく買ってきて、グワッと一気に読了しました。
シリーズ最初の『姑獲鳥の夏』を読んだときのような昂揚感がありました。それに、哀しさが。死生観(これだけでネタバレ)と、日本人の風習と…。自分の周囲に最近起きた事も頭をよぎって、ふと本を閉じて考えさせられることも。
僕は批評者ではなく単に読者なので、まさに「言葉と文字になってしまえば後は好き嫌い以外に価値基準はないよ」的な立場であるし、ワケあって登場人物の何人かに微妙で特殊な思い入れがあったりもするので、
このひとの作品は好きだし、楽しい。次も読みたい。
そんな、夏休みの読書感想文のようなひとことに尽きます。夏も終わりなのでちょうどいいかな(笑)

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